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東京地方裁判所 昭和55年(行ウ)149号 判決 1983年1月26日

原告 福田徹夫

被告 渋谷税務署長

主文

一  被告が昭和五三年二月二八日付けで原告の昭和五一年分の所得税についてした更正及び過少申告加算税の賦課決定のうち、みなし法人所得額を二一一万八〇〇〇円、総所得金額を一五六三万四九八二円、短期譲渡所得の金額を五一九万六八七九円として計算した額を超える部分を取り消す。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを四分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。

事実

第一当事者の求めた判決

一  原告

1  被告が昭和五三年二月二八日付けで原告の昭和四九年分ないし同五一年分の所得税についてした次の各処分を取り消す。

(一) 昭和四九年分所得税の更正のうち別表一1修正申告欄記載の額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(二) 昭和五〇年分所得税の更正のうち別表一2確定申告欄記載の額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

(三) 昭和五一年分所得税の更正(但し、審査裁決により一部取り消された後のもの。)のうち別表一3修正申告欄記載の額を超える部分及び過少申告加算税賦課決定(但し、審査裁決により一部取り消された後のもの。)

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)

二五条の二第一項に定めるみなし法人課税選択者であるところ、原告の昭和四九年分ないし同五一年分の各所得税の課税経緯は、別表一記載のとおりであり、昭和四九年分の修正申告及び更正、同五〇年分の確定申告及び更正並びに同五一年分の修正申告及び更正(但し、審査裁決により一部取り消された後のもの。以下右各年分の更正を併せて「本件各更正」という。)の計算明細は、別表二記載のとおりである。

2  しかしながら、原告の所得は、昭和四九年分及び同五一年分については各修正申告、同五〇年分については確定申告のとおりであり、本件各更正は原告の所得を過大に認定したもので違法であり、したがつて、これを前提としてされた各過少申告加算税の賦課決定(昭和五一年分については、審査裁決によつて一部取り消された後のもの。以下「本件各賦課決定」という。)も違法である。

3  よつて、原告は、本件各更正及び各賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1の事実は認めるが、同2は争う。

三  被告の主張

1  不動産所得に係る必要経費について

(一) 原告は、東京都渋谷区西原一丁目三二番一所在の宅地四一二・三二平方メートル(以下「甲土地」という。)を所有し、これを牧野美好(以下「牧野」という。)に賃貸していたところ、昭和四八年七月六日、原告と牧野並びに利害関係人古市イ子及び古市昇との間において調停が成立し、原告と牧野との間で甲土地の賃貸借契約を合意解除することとされ、その調停条項に基づき原告から牧野に対して甲土地の明渡料及び営業補償金の名目で一五五〇万円が支払われたが、原告は、この金員について繰延資産(償却期間五年)に該当するものとし、昭和四九年分ないし同五一年分の不動産所得の金額の計算上、右支払いに係る金額の五分の一に相当する三一〇万円をそれぞれ繰延資産の償却費の額として必要経費に算入して申告した。

(二) しかしながら、右一五五〇万円は、原告と牧野との間で甲土地の賃貸借契約を合意解除し、牧野が甲土地を原告に対して明け渡す代償として支払われたものであるから、甲土地の借地権消滅の対価と認めるのが相当である。

そして、所得税法二条一項二〇号及び同法施行令七条一項によれば、「資産の取得に要した金額とされるべき費用」は繰延資産とはならないことが明らかであるところ、借地権は一般に実質的資産と認識されており、所得税法二条一項一八号も「土地の上に存する権利」が土地に含まれるものとして資産であることを明らかにしており、したがつて、借地権を取得するために支出する権利金その他の費用は、当該借地権の取得に要した費用、すなわち資産の取得価額となるものであり、繰延資産となる余地は存せず、同様に、他人に賃貸していた土地についてその借地権を消滅させるために支出した立退料その他の費用も、他人の有していた土地の上に存する権利を自己のものとするために支出するものであるから、土地の取得価額となるものであり、繰延資産となる余地は存しない。

したがつて、前記一五五〇万円は、甲土地の取得価額に算入されるべきであつて、繰延資産には該当しない。

(三) よつて、各年分の不動産所得の金額の計算上、申告に係る必要経費の額からそれぞれ前記三一〇万円が減算されるべきである。

2  譲渡所得の金額について

(一) 原告は、東京都渋谷区西原一丁目一三番一所在の宅地二一八・三四平方メートル(以下「乙土地」という。)を所有し、これを藤村てう及び藤村多加子(以下「藤村ら」という。)に賃貸していたが、昭和五一年一一月二五日、藤村らから乙土地の借地権を一五一一万円で買い戻して消滅させ、同日杉浦文彦(以下「杉浦」という。)との間で新たに乙土地の賃貸借契約を締結し、同人から借地権設定の対価として二四七六万円を受領した。そして、原告は、昭和五一年分の所得税について、右二四七六万円と一五一一万円との差額九六五万円を長期譲渡所得に係る収入金額とした上、これに措置法三七条一項表一四号の規定を適用して、当該譲渡による収入金額が当該買換資産の取得価額一二二二万七一〇〇円以下であるから、当該譲渡に係る資産の譲渡がなかつたものとみなされる旨の申告をした。

(二) しかしながら、原告が受領した借地権設定の対価二四七六万円は、乙土地の更地価額三六四〇万円の一〇分の五に相当する金額を超えるので、資産の譲渡収入とみなされ、かつ、当該譲渡は、昭和五一年一一月二五日に取得した資産(借地権)の譲渡であり、当該譲渡資産は昭和四四年一月一日前に取得をされたものではないから、措置法三七条一項表一四号に規定する長期保有の事業用資産に該当せず、当該譲渡による収入金額二四七六万円は短期譲渡所得に係る収入金額となる。そして、譲渡所得の金額の計算上、右収入金額から控除する取得費の額は、当該借地権を買い戻すために藤村らに対して支払つた一五一一万円となるから、右収入金額から右取得費の額を控除した九六五万円が短期譲渡所得の金額となる。

(三) よつて、原告の昭和五一年分の所得として、短期譲渡所得の金額九六五万円が認定されるべきである。

3  以上の次第で、原告の各年分の所得は、別表二の各「更正」欄記載のとおりであるから、本件各更正は適法であり、したがつて、これを前提としてされた本件各賦課決定も適法である。

4(一)  ところで、所得税基本通達(以下「所基通」という。)の昭和五六年二月五日付けの一部改正によつて新設された所基通三三―一一の二及び三八―四の二は、借地権を消滅させた後新たに借地権を設定した場合には、その土地のうち借地権の消滅時に取得したものとされる部分(旧借地権部分)とその他の部分(旧底地部分)のそれぞれの部分について借地権の設定があつたものとして所得計算を行うべき旨の取扱いを定めているところ、右通達の改正に至つた趣旨等は、次のとおりである。

(1) 対価を支払つて借地権を消滅させた後当該土地に新たに借地権を設定した場合において、その設定に係る譲渡所得の金額をいかに計算するかについては、所得税法に明文の規定がなく、右改正前の所基通(以下「旧所基通」という。)にも定めがなかつた。そこで、この場合の実務における取扱いは、取得費に関する旧所基通三八―四(三)ロにおいて借地権消滅の対価全額を取得費として控除することとしていたこととの関連上、新借地権設定の対価は、その全額を短期譲渡所得又は長期譲渡所得の収入金額とすることとしていた。

(2) 右取扱いにおいては、借地権消滅の対価(旧借地権部分の価額)は、控除すべき取得費として常に新借地権設定の対価(新借地権価額)に対応させて所得計算を行うこととなるところ、旧借地権消滅時と新借地権設定時との間には通常時期的な隔たりがあり、この間に土地の値上りが生じ両時点の借地権価額に開差が生じた場合、本来その価額差は旧借地権部分及び旧底地部分の双方に発生した値上り額により構成されていると認識されるべきであるのに、右取扱い上はこれが区分されず、土地の値上りは旧借地権部分のみに発生したものとされる結果となる等の不合理が指摘されていた。

(3) そこで、右通達の改正は、右のような事例につき、新借地権をもつて、その土地のうち借地権の消滅時に取得したものとされる部分(旧借地権部分)とその他の部分(旧底地部分)のそれぞれの部分について設定されたものとしてとらえることができるようにしたものである。

(二)  したがつて、所基通三三―一一の二及び三八―四の二は、旧借地権消滅時と新借地権設定時との間に時期的な隔たりがあり、土地の値上り等の要因が存する場合の合理的な所得計算の方法を定めたものであるから、旧借地権を消滅させ同日のうちに新借地権を設定し、その間に土地の値上り等の特段の事情のない本件のような場合には適用がないものである。

5  譲渡所得の金額についての予備的主張

仮に、本件においても借地権設定の対価が旧借地権部分と旧底地部分とに区分されるべきであるとするならば、その所得計算は、所基通三三―一一の二及び三八―四の二(二)によつて行われるべきであり、別紙計算表一記載のとおりとなる。

6  よつて、昭和五一年分の本件更正及び賦課決定は、みなし法人所得額を二一一万八〇〇〇円、総所得金額を一五六三万四九八二円、短期譲渡所得の金額を六五六万四一二一円として計算した額の範囲内では適法である。

四  被告の主張に対する認否

1  被告の主張1の(一)の事実は認めるが、同(二)及び(三)は争う。

2  被告の主張2の(一)の事実及び乙土地の更地価額が三六四〇万円であることは認めるが、同(二)及び(三)は争う。

3  被告の主張3は争う。

4  被告の主張4の(一)のうち、通達の改正に至つた趣旨等に関する事実は不知、その余の事実は認める。同(二)は争う。

5  被告の主張5及び6は争う。

五  原告の反論

1  不動産所得に係る必要経費について

(一) 調停成立に至る経緯は、次のとおりである。

(1) 原告は、昭和三五年九月二八日、甲土地を牧野に対し、賃貸借期間二〇年、甲土地のうち二三四・〇一平方メートル(以下「甲1土地」という。)については建物所有目的、残り一七八・三一平方メートル(以下「甲2土地」という。)についてはコンクリート製造事業場として使用することを目的として賃貸した。

(2) ところが、牧野は、昭和四七年四月ころ、原告の承諾なしに使用人の亡古市宗治(以下「亡古市」という。)に対し、有限会社牧野コンクリート工業(以下「訴外会社」という。)の運営権を全面的に移譲し、コンクリート製造事業を引き継がせた。

そこで、原告は、同年五月ころ、牧野に対し、同人の事業廃止による使用目的の消滅に基づく賃貸借契約の終了及び無断転貸による契約解除を理由として甲2土地の明渡しを求めた。

(3) そして亡古市が同年七月ころ急死したため右事業は完全に廃止されたが、甲2土地上に存した仮設建物は朽廃したまま放置され、コンクリートブロツク片、万年塀の材料等が散乱したままの状態であつた。

また、甲1土地上には木造スレート亙交葺平家建居宅兼倉庫が存し、亡古市の遺族である古市イ子及び古市昇が引き続き居住していたが、右建物も朽廃し、居住の用に適さなくなつていた。

(4) そこで、原告は、同年一二月、牧野に対し、甲1土地については建物の朽廃による賃貸借契約の終了を、甲2土地については使用目的の消滅に基づく賃貸借契約の終了及び無断転貸による契約違反を理由として、甲土地の賃貸借契約を解除する旨通告した。

(5) ところが、牧野は、昭和四八年三月九日、東京地方裁判所に甲土地について借地権の譲渡の承諾を求める調停の申立てをした。

右調停において、牧野は、甲土地の明渡義務のあることを認めたが、訴外会社は営業を停止したまま事後処理がなされておらず、亡古市の死亡退職金も未払いのままであるため、右退職金並びに古市イ子及び古市昇に対する立退料等訴外会社の事後処理に要する費用を原告が負担してくれれば甲土地を明け渡すが、そうでなければ明け渡せない旨主張した。そこで、原告は、右牧野の要請に応じ、訴外会社の事後処理費用として一五五〇万円を牧野に支払うこととし、昭和四八年七月六日調停が成立した。その際、同時に牧野から古市イ子及び古市昇に対して右退職金一五〇万円及び立退料四五〇万円を支払うこととされた。

(6) 原告は、右調停条項に基づき牧野に対して一五五〇万円を支払い、同年一〇月二七日、牧野から甲土地の明渡しを受け、昭和四九年二月一日から同土地を貸駐車場として事業の用に供している。

(二) 以上の経緯から明らかなとおり、甲1土地の借地権は同土地上の建物が朽廃した時点、甲2土地の借地権は牧野が事業を廃止した時点、いずれも遅くとも賃貸借契約解除の意思表示をした昭和四七年一二月には消滅していたものであり、調停においては、既に消滅した借地権について将来の紛争を防止するために改めて合意解除により借地権の消滅を相互に確認したにすぎないものであり、また、原告から牧野に支払うこととされた一五五〇万円は、実質的にみて、亡古市の退職金、古市イ子及び古市昇に対する立退料並びに建物取毀、残留品撤去費用等訴外会社の事後処理に要する費用を原告が牧野に代わつて負担したものである。

したがつて、右一五五〇万円は、借地権消滅の対価ではない。仮に、一五五〇万円全額が訴外会社の事後処理費用にあてられていないとしても、少なくとも前記調停条項に基づき牧野から古市イ子及び古市昇に対して支払われた亡古市の退職金一五〇万円及び立退料四五〇万円の合計額六〇〇万円は、借地権消滅の対価ではない。右一五五〇万円は、原告が貸駐車場業を営むための開業準備に要した費用であるから、繰延資産に該当するものである。

(三) 原告は、昭和三六年分の所得税の確定申告において、牧野に対して支払つたのと同一趣旨で借地人長沢滝男に対して支払つた金員について、不動産所得の金額の計算上必要経費に計上したところ、被告より繰延資産に該当するとして更正を受け、以後昭和四〇年分まで五年間にわたり償却費として計上したことがあるから、牧野に対して支払つた金員についても右と同一の処理が行われるべきである。

したがつて、被告が従前の処理を変更して本件各更正をしたのは、信義に反し許されない。

2  譲渡所得の金額について

(一) 乙土地の借地権取引の経緯は、次のとおりである。

(1) 原告は、昭和一九年七月一〇日、その所有に係る乙土地を含む約六五一・三一平方メートルの土地を亡藤村次郎に対して賃貸し、同人は、同土地上に建物を所有していたところ、昭和三三年一一月一五日に死亡した。

(2) そして、昭和四六年一月一日に至り、原告と亡藤村次郎の遺族である藤村らとの間で、右借地の一部を原告に返還する、その余の乙土地を含む借地については工場及び共同住宅を除外した普通建物所有目的に限定し、賃貸借期間二〇年とする旨の合意がなされた。

(3) しかるに、藤村らは、右合意に反して借地上に共同住宅を建築しはじめ、原告は、これを昭和四七年七月に知つたので、同月一一日賃貸借契約解除の通知をした。

(4) その後、原告と藤村らとの間で交渉を重ねた結果、昭和五一年一一月二五日、原告が賃貸地の一部である乙土地の借地権を藤村らから買い戻し、新たに第三者に借地権を設定するものとし、その設定の対価の六割をもつて藤村らからの借地権買戻しの対価とする旨の和解契約が成立し、原告は、同日、藤村らから乙土地の借地権を一五一一万円で買い戻し、杉浦に対して新たに乙土地の借地権を二四七六万円の対価で設定した。

(二) 以上の経緯から明らかなとおり、藤村らの有していた乙土地の借地権は、債務不履行等の瑕疵のある借地権で、地主である原告との関係で多くの価額減少要因を包含するものであり、その借地権割合は、その地域の平均的な借地権割合より相当低い評価を受けるものであつた。これに対し、原告が杉浦に対して設定した乙土地の借地権は、何ら瑕疵のない新たな借地権であり、藤村らから買い戻した乙土地の借地権に原告が昭和四四年一月一日前から有している乙土地の底地の一部を付加して設定したものである。したがつて、借地権設定の対価二四七六万円と買戻しの対価一五一一万円との差額九六五万円は、乙土地の底地の一部の評価に対応するものである。

(三) また、本件においては、借地権の買戻しと新たな借地権の設定とは同一日に行われており、借地権について値上り益が生じたものとは到底認められないのである。土地所有者が借地権を取得して消滅させた後当該土地を譲渡した場合については、国税不服審判所昭和四九年九月二七日裁決(昭和四四年分所得税・東国裁例集一〇―四)は、借地権の取得から当該土地の譲渡までの期間がそれほど経過していないものについて値上り益が生じたとも認め難いことを理由として借地権の譲渡価額はその取得額と同一であるとし、短期譲渡所得の金額はないものとしているが、本件のように借地権を消滅させた後新たに借地権を設定した場合においても、資産の譲渡として右裁決の土地の譲渡と区別すべき理由はないから、右裁決例に従つた取扱いがされるべきである。

(四) 以上に述べたとおりで、原告が杉浦に対して設定した乙土地の借地権の対価二四七六万円は、藤村らから買い戻した乙土地の借地権に対応する収入金額一五一一万円と乙土地の底地の一部に対応する収入金額九六五万円とに区分されるべきである。そして、右借地権の取得費は一五一一万円であるから、短期譲渡所得の金額はなく、右九六五万円については、長期譲渡所得として措置法三七条一項表一四号の規定が適用され、当該譲渡に係る資産の譲渡がなかつたものとみなされる。

3  譲渡所得の金額についての予備的主張

(一) 本件のように借地権を消滅させた後新たにその土地に譲渡所得の基因となる借地権を設定した場合には、いつたん借地権を消滅させた後は、その土地は更地の状態に復元し、その更地に新たな借地権を設定したものであるから、旧借地権部分及び旧底地部分のそれぞれについて借地権の設定があつたものとして取り扱うべきであり(所基通三三―一〇)、また、一の契約により譲渡した資産のうちに短期保有資産と長期保有資産とがある場合には、それぞれの譲渡資産の収入金額は、当額譲渡に係る収入金額の合計額をそれぞれの譲渡資産の当該譲渡の時の価額の比によりあん分して計算すべきである(所基通三三―一一)。昭和五六年二月五日付けの所基通の改正前においても所基通三三―一一には収入金額の区分計算を行う旨定められていたのであつて、借地権が譲渡資産である以上同通達により区分計算すべきであり、このことは右改正をまつまでもないことである。なお、所基通三三―一一の二は、同三三―一一を母通達とする細分化の通達であつて、新たに取扱いを定めたものではないのである。

(二) そこで、本件について、収入金額につき所基通三三―一一、取得費につき旧所基通三八―四(三)ロによつて所得計算を行うと、別紙計算表二記載のとおりとなる。

六  原告の反論に対する認否

1  原告の反論1の(一)の事実は認めるが、同(二)は争う。同(三)の事実は不知、主張は争う。

2  原告の反論2の(一)の事実は認めるが、同(二)ないし(四)は争う。

3  原告の反論3は争う。

七  被告の反論

1  原告の反論1の(二)に対して

一般に借地権に関する紛争当事者間で授受された金員が借地権消滅の対価であるか否かを判断するに当たつては、当該借地権が法律上いつ消滅したかは重要な要素ではなく、当該金員が実質的に紛争当事者間における借地権に関する紛争を解決し、当該借地権を消滅させるための対価として支出されたものであるか否かによつて決せられるべきである。

これを本件についてみると、原告と牧野との間において甲土地の借地権の存否、明渡しに際しての費用負担をめぐつて紛争が続いたことから、原告は、この紛争を最終的に解決するため、調停を成立させ、その調停条項に基づいて一五五〇万円を支出し、これを対価として甲土地の明渡しを受けたものであり、また、原告には訴外会社の事後処理費用を直接負担すべき理由は勿論、牧野に代わつて負担すべき理由も存しないというべきであり、右金員の支払いは、原告が甲土地の使用をめぐる牧野との間の関係を一切清算し、同土地を所有者としての完全な支配下に置くための代償としてなされたものというべきであるから、右金員が借地権消滅の対価であることは明らかである。

2  原告の反論1の(三)に対して

税務官庁の処分に非違があつた場合には、その非違を是正すべきことは当然であるから、仮に、原告主張のとおりの事実があつたとしても、そのことのゆえに、税法の規定に従つて適正になされた本件各更正が信義に反し違法となるものではない。

3  原告の反論2の(二)に対して

(一) 乙土地の借地権取引の経緯については、原告の反論2の(一)の事実のほか次に述べる経緯等が存した。

(1) 原告と藤村らとの間で和解契約が成立し、原告が杉浦に対して借地権を設定した昭和五一年一一月二五日以前に、原告において藤村らの代理人藤村一郎に対し乙土地の新たな借地人を探すことを委任し、藤村らの依頼を受けた不動産取引業者表岩次郎において新借地人として杉浦を推薦し、藤村一郎が同年一〇月二四日原告に杉浦を紹介したところ、同年一一月一一日原告から乙土地に係る賃貸借契約を同月二〇日杉浦との間で締結してもよい旨の連絡を受けたため、即日表岩次郎の仲介により、右賃貸借契約の細部は原告と杉浦との間で取り決められる前提のもとに、藤村らと杉浦との間で、藤村らが杉浦に対して乙土地の借地権を二四七六万円の対価で譲渡する旨の借地権売買契約が締結された。

(2) そこで、原告と藤村らとの間で成立した和解契約においては、原告は明渡しを受けた乙土地に新たに第三者に借地権を設定するものとし、新賃借人の選定を藤村らに一任する、新賃借人が原告に支払うべき新借地権設定のための権利金はこれを一〇分し、その四を原告において、その六を藤村らにおいてそれぞれ受領するものとし、原告が受領する分は少なくとも九六五万円を下回らないものとする、原告は新賃借人が藤村らを経由して右権利金を支払うことを承認する旨の条項が含まれることとなつた。

(3) 杉浦に対する新借地権設定の対価は、近隣類地の借地権割合(六二・五パーセント)に従つて算定されたものであつたのに対し、藤村らが受領すべき旧借地権消滅の対価は、原告が従前から藤村らに対して賃貸していた土地のうち乙土地を除いた約半分のその余の土地については従来どおり継続して賃貸することとした等の事情があつたため、原告と藤村らとの折衝により通常の対価より相当低額とすることに双方合意して定められたものにすぎない。

(4) 前記和解条項に基づき藤村らが受領すべき金額としては早期解決の利息分一二三八万円、新賃借人紹介料一二三万円、乙土地の賃料返還分一五〇万円の合計額一五一一万円が見積られ、原告が受領すべき最低額九六五万円は、新借地権設定の対価二四七六万円のうち原告の取り分である一〇分の四に相当する金額から、藤村らが負担していた乙土地に関する測量代等二五万円を差し引いて算出された。

(5) 原告が杉浦に対して設定した借地権については、工場及び共同住宅を除く普通建物の所有を目的とし、賃貸借期間二〇年とする旨定められており、新旧借地権は目的及び期間が同一である。

(6) 藤村らは、杉浦から受領した二四七六万円を自己が保有する借地権の譲渡による長期譲渡所得に係る収入金額であるとし、原告に支払つた九六五万円を名義書換料として譲渡費用の額に算入して、所得税確定申告を行つている。

(二) 以上の経緯等を総合考慮すると、乙土地の借地権取引の実体は、原告が藤村らの有していた乙土地の借地権と同一内容の借地権を新借地人に設定する前提の下に藤村らの借地権を消滅させ、かつ、これを杉浦に対して設定したものにほかならず、その実質的内容は、原告による借地権という資産の取得及び譲渡に当たるというべきであり、この間に、原告が主張するような借地権のほか底地の一部を付加して譲渡したと認識すべき理由は存しない。

4  原告の反論3の(一)に対して

所基通三三―一〇は、底地所有者がその土地に係る借地権を取得して更地として譲渡をした場合の当該借地権の「取得の日」の判定に関する取扱いを定めたものであり、かつ、それにとどまるものであつて、原告主張のような内容まで定めたものではない。

また、昭和五六年二月五日付けの所基通の改正が行われたゆえんは、借地権を消滅させた後その土地に新たな借地権を設定した場合の収入金額の区分計算について、基本的な考え方としては所基通三三―一一の定める価額比によるとしても、譲渡時の価額比、すなわち新たな借地権の設定時の借地権割合で区分することは適切でないところから、旧借地権消滅時の借地権割合で区分するものとし、新たにこの取扱いを定めた所基通三三―一一の二を設けたものであつて、原告主張のように右改正前においても所基通三三―一一が右の場合の収入金額の区分計算について定めていたと解することはできないのである。

八  被告の反論3の(一)に対する認否及び原告の再反論

1  (1)、(2)、(4)及び(5)の事実は認める。(6)の事実は不知。

2  (1)の藤村らと杉浦との間の借地権売買契約は、事情を知らない表岩次郎の仲介により原告に無断でなされたものである。

第三証拠関係<省略>

理由

一  請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、本件各更正に原告の所得を過大に認定した違法が存するか否かについて判断する。

1  別表二記載の原告の昭和四九年分ないし同五一年分の所得の計算明細のうち、<1>、<4>、<5>、<8>及び<10>の各項目に係る金額については、当事者間に争いがない。

2  不動産所得に係る必要経費について

(一)  被告の主張1の(一)の事実及び原告の反論1の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  原告から牧野に対して支払われた一五五〇万円について、被告は、甲土地の借地権消滅の対価であると主張するのに対し、原告は、これを争い、右金員の授受とは関係なく既に借地権は消滅していたものであり、右金員は訴外会社の事後処理費用を原告が牧野に代わつて負担したもので、原告が貸駐車場業を営むための開業準備費用であるから繰延資産に該当すると主張するので、まず、この点について検討する。

右(一)の当事者間に争いのない事実によれば、甲土地の賃貸人である原告と賃借人である牧野との間において、甲土地の借地権に関する紛争を最終的に解決させるため、牧野において原告に対して甲土地を明け渡し、原告においてはその明渡しを受けるために牧野に対して一五五〇万円を支払うこととして調停成立に至つたものであり、その調停条項に基づき原告から牧野に対して一五五〇万円が支払われ、これと引換えに牧野から原告に対して甲土地が明け渡され、原告において甲土地の明渡しを受けてその所有権を完全に回復したものと認められる。したがつて、右一五五〇万円は牧野が甲土地を原告に対して明け渡す代償として支払われたもの、すなわち借地権消滅の対価と認められる。

原告のいう訴外会社の事後処理費用は、牧野と亡古市の遺族である古市イ子及び古市昇との間において清算されるべきもので、原告において負担すべき理由のないものであり、現に右調停においても牧野から利害関係人として調停に参加した古市イ子及び古市昇に対して金員の支払約束がなされているものであり、右一五五〇万円が算定される際に右費用が考慮されたとしても、このことをもつて右一五五〇万円が借地権消滅の対価であることを否定することはできない。

そして、所得税法二条一項二〇号及び同法施行令七条一項によれば、「資産の取得に要した金額とされるべき費用」は繰延資産の範囲から除外されることが明らかであるところ、税法上「資産」の定義規定はないが、「土地の上に存する権利」は資産に該当することが前提とされているところであり(所得税法二条一項一八号、措置法三一条一項、三二条一項等)、借地権が「資産」に該当することは明らかである。したがつて、借地権を取得するために支出した権利金その他の費用は、資産(借地権)の取得に要した費用であり、繰延資産に該当しないものであり、これと同様にして、他人に賃貸していた土地についてその借地権を消滅させるために明渡料その他の費用(借地権消滅の対価)を支出した場合についても、借地権の消滅は、底地所有者が他人の有していた借地権を取得することにほかならず、右費用(対価)は、他人の有していた借地権を取得するために支出した費用であるから、土地の取得価額を構成するものであり、繰延資産に該当しないものである。

以上の次第で、前記一五五〇万円は、借地権消滅の対価として甲土地の取得価額に算入されるべきものであり、繰延資産には該当しない。

(三)  原告は、被告がかつて原告から牧野に対して支払われたのと同一趣旨で他の借地人に支払われた金員について繰延資産に該当するとして処理していながら、右処理を変更して本件各更正をしたのは信義に反し違法であると主張する。

しかしながら、原告から牧野に対して支払われた金員が繰延資産に該当しないこと前記のとおりであるから、右金員が繰延資産に該当しないとしてされた本件各更正に違法はない。また、被告の従前の処理に関して原告の主張するような事実を認めるに足りる証拠はなく(甲第一ないし第五号証によつても原告主張事実を認めることができない。)、仮に、原告主張のとおりの事実があつたとすれば、被告の従前の処理が誤つていたものであり、新たな支出につき正しい処理を行つても原告に対し不当な犠牲を強いることにはならないから、被告において従前の誤つた処理方法を踏襲しなかつたからといつて信義に反し違法となることはない。

(四)  よつて、原告の昭和四九年分ないし同五一年分の不動産所得の金額の計算上、申告に係る必要経費の額からそれぞれ繰延資産の償却費の額として算入された三一〇万円が減算されるべきである。そうすると、不動産所得に係る必要経費の額は、別表二の項目<2>の各「更正」欄記載のとおりとなる。

3  みなし法人所得額及び総所得金額について

前記1の当事者間に争いがない金額及び右2認定の不動産所得に係る必要経費の額に基づいて、原告の昭和四九年分ないし同五一年分のみなし法人所得額及び総所得金額を算出すると、別表二の各「更正」欄記載のとおりとなる。

4  譲渡所得の金額について

(一)  被告の主張2の(一)の事実及び原告の反論2の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

(二)  原告が杉浦に対して乙土地の借地権を設定した行為は、建物の所有を目的とする賃借権(借地権)の設定であり、その設定の対価として支払いを受けた金額二四七六万円が乙土地の更地価額として当事者間に争いのない金額三六四〇万円の一〇分の五に相当する金額を超えるので、所得税法三三条一項、同法施行令七九条一項一号により資産の譲渡とみなされる。

そして、原告は、藤村らから乙土地の借地権を一五一一万円で買い戻して消滅させたうえで、杉浦に対し借地権を設定しているが、このように、土地所有者が旧借地権を消滅させた後に当該土地に新借地権の設定をした場合においては、土地所有者は、旧借地権を取得して消滅させることにより、当該土地のうち旧借地権の消滅時に取得したものとされる部分(旧借地権部分)とその他の部分(旧底地部分)をあわせ所有することとなり、旧借地権部分と旧底地部分をあわせた更地としての当該土地に新借地権を設定したものであると考えられる。しかして、旧借地権部分と旧底地部分とでは、取得時期、取得費等の面で資産としての性格を異にしているから、旧借地権部分と旧底地部分のそれぞれの部分について新借地権を設定したものとして取り扱い、新借地権設定による収入金額を旧借地権部分に係る分と旧底地部分に係る分とに区分すべきであり、それぞれの収入金額は旧借地権消滅時の旧借地権部分及び旧底地部分の適正価額の比によりあん分して計算するのが相当である。なお、このような取扱いは、所基通三三―一一の二の定めに一致するものである。

そこで、原告が昭和五一年一一月二五日藤村らから旧借地権を買い戻してこれを消滅させた時点における旧借地権部分及び旧底地部分の適正価額が問題となるが、当時の乙土地の更地価額が三六四〇万円で近隣類地の借地権割合が六二・五パーセントであることは当事者間に争いがないから、旧借地権部分の適正価額は二二七五万円、旧底地部分のそれは一三六五万円と認めるのが相当である。なお、原告は、藤村らから旧借地権を一五一一万円で買い戻しているが、これは右更地価額の約四一・五パーセントにすぎないうえ、原本の存在及び成立に争いのない甲第八号証及び乙第九号証並びに成立に争いのない甲第九ないし第一一号証によると、原告及び藤村らは、両者間の乙土地を含む土地賃貸借契約に関する紛争解決の一環として、杉浦からの権利金を原告四、藤村ら六の割合で配分することとし、右金額を算出したことが認められるから、右金額をもつて旧借地権部分の適正価額とすることはできない。また、原告は、右同日、杉浦から新借地権設定の対価として二四七六万円を取得しているが、前掲乙第九号証によると、右金額は乙土地の更地価額を坪当たり六〇万円としてこれに借地権割合六二・五パーセントを乗じて計算されたものであることが認められるところ、当事者間に争いのない前記更地価額三六四〇万円は坪単価を五五万円として計算されたものであるから、旧借地権部分の適正価額として二四七六万円を採用することもできない。

そうだとすれば、原告が杉浦に対し新借地権を設定したことによる収入金額は、旧借地権部分に係る収入金額一五四七万五〇〇〇円と、旧底地部分に係る収入金額九二八万五〇〇〇円とに区分される。そして、原告が旧借地権部分を昭和五一年一一月二五日に、旧底地部分を同四四年一月一日前に取得していることは当事者間に争いがないから、旧借地権部分の一五四七万五〇〇〇円は短期譲渡所得に係る収入金額であり、旧底地部分の九二八万五〇〇〇円は長期譲渡所得に係る収入金額となる。そして、右長期譲渡所得に係る収入金額九二八万五〇〇〇円は、当事者間に争いのない措置法三七条一項表一四号に規定する買換資産の取得価額一二二二万七一〇〇円以下であるから、当該譲渡に係る資産の譲渡がなかつたものとされる。したがつて、長期譲渡所得の金額はないことになる。

(三)  被告は、杉浦に対する借地権の設定による譲渡は原告が藤村らから買い戻して取得した借地権の譲渡であり、所基通三三―一一の二も旧借地権消滅時と新借地権設定時との間に時期的な隔たりがあり、土地の値上り等の要因が存する場合の合理的な計算方法を定めたものであるから、本件のような場合には適用にならないと主張する。

確かに、原告は、昭和五一年一一月二五日藤村らから乙土地の借地権を一五一一万円で買い戻し、即日杉浦に対し乙土地の借地権を設定し、その対価として二四七六万円を受領しており、藤村らから取得した借地権を杉浦に譲渡したかのような観がある。しかしながら、右(一)の当事者間に争いのない事実並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第六ないし第八号証によると、原告は、藤村らの有していた借地権をそのまま杉浦に承継させたものではなく、藤村らの借地権をいつたん消滅させ、杉浦に対し新規に借地権を設定し、賃貸期間を昭和五一年一一月二五日から二〇年間、賃料を坪当たり一か月五三〇円と新たに定めており(藤村らとの間では賃貸期間が同四六年一月一日から二〇年間で、賃料が坪当たり一か月一八〇円)、右新旧借地権の間には何らの関係もないことが認められるから、杉浦に対する新借地権の設定をもつて藤村らから取得した旧借地権の譲渡であるとすることは相当ではない。

被告は、被告の反論3の(一)の事実を基に前記主張をするところ、同(1)、(2)、(4)及び(5)の事実は当事者間に争いがなく、原本の存在及び官公署作成部分の成立について争いがなく、弁論の全趣旨によりその余の部分の成立が認められる乙第四号証の一ないし三によれば、同(6)の事実も認められるが、杉浦が乙土地の借地権を取得したのは、藤村らから譲渡を受けたためではなく、原告から設定を受けたためであることは当事者間に争いがないうえ、原本の存在及び成立について争いがない乙第二及び第三号証並びに前掲乙第九号証によれば、同(1)の藤村らと杉浦との間の借地権売買契約は、原告と藤村らとの交渉の経緯等の事情を知らない表岩次郎の仲介により原告に無断でなされたものであることが認められるから、右借地権売買契約は事実に符合せずその内容に伴う効果の発生しない無効のものであり、したがつて、同(6)の藤村らのした申告も事実に符合しない誤つたものであり、また、藤村らの有していた借地権と杉浦に対して設定された借地権の設定の目的が同一であつても、このことをもつて直ちに右両借地権が同一のものであるということはできない。したがつて、被告の反論3の(一)の事実を基に被告の前記主張を理由付けることはできない。

したがつて、原告は旧借地権を消滅させて更地となつた乙土地に新借地権を設定したものといわざるをえず、乙土地が旧借地権部分と旧底地部分という性格の異なる資産から成つている以上、旧借地権の消滅と新借地権の設定との間に時間的隔たりがなくても、新借地権設定による収入金額を前記のように区分するのが相当であり、それがたまたま所基通三三―一一の二の定めにも符合するだけであつて、被告の右主張は採用できない。

(四)  一方、原告は、原告が藤村らから旧借地権部分を一五一一万円で買い戻したうえ、これに底地の一部を付加して杉浦に譲渡(新借地権の設定)したものであるから、新借地権設定による収入金額は旧借地権部分一五一一万円、旧底地部分九六五万円と区分すべきであると主張する。

しかしながら、新旧借地権の間には何らの関係がなく、新借地権は旧借地権部分と旧底地部分をあわせた更地としての乙土地に設定されたものと考えられるべきであること前記のとおりであるから、新借地権の設定による譲渡に旧借地権全部の譲渡が含まれるとする点において、被告の前記主張と同様に失当である。

そして、収入金額は譲渡資産の財産的価値に対応するものであつて、そのあん分は各資産の客観的価値の比によるのが相当であるから、(二)で述べた区分を採用すべきであり、たとえ旧借地権の取得価額が一五一一万円だからといつて、原告主張の右区分を採用することはできない。

また、原告は、裁決例を引用して、旧借地権の買戻しと新借地権の設定とが同一日に行われ、借地権について値上り益が生じたと認められない本件においては短期譲渡所得の金額はないものとすべきであると主張する。

しかしながら、原告引用の裁決例は、借地権を消滅させた後に当該土地(取得した借地権全部が含まれている。)を譲渡した事案に関するもので、本件とは事案を異にするものであり、原告の右主張は、新借地権の設定は旧借地権に乙土地の底地の一部を付加して譲渡したものであるとの前記主張を前提とするものであるから、前提において失当である。

(五)  次に、取得費について検討するに、旧借地権部分全体の取得費が一五一一万円であるから、旧借地権部分に係る収入金額一五四七万五〇〇〇円に対応する取得費は、一五一一万円に、新借地権設定の対価の額(二四七六万円)が新借地権設定時の乙土地の更地価額(三六四〇万円)のうちに占める割合を乗じて計算した一〇二七万八一二一円となる。なお、この金額は、所基通三八―四の二(二)により計算した額に一致するものである。

(六)  原告は、右取得費は旧所基通三八―四(三)ロにより一五一一万円と計算すべきであると主張する。

しかしながら、旧所基通三八―四(三)ロは、新借地権の設定をもつて旧借地権の譲渡とする考え方を前提として規定されたものであり(したがつて、右規定は昭和五六年二月五日付けの所基通の一部改正により削除された。)、収入金額を旧借地権部分と旧底地部分に区分する考えを前提としておらず、原告主張の取得費は旧借地権部分全体の取得費であつて、杉浦に対し新借地権の設定によつて譲渡したのは旧借地権部分の一部にすぎず、旧借地権部分に係る収入金額一五四七万五〇〇〇円に対応する取得費は、右(五)のとおり計算すべきであるから、原告の右主張は採用できない。

(七)  以上によれば、短期譲渡所得の金額は、旧借地権部分に係る収入金額一五四七万五〇〇〇円から旧借地権部分に係る取得費の額一〇二七万八一二一円を控除した五一九万六八七九円となる。

5  以上の次第であるから、昭和四九年分及び同五〇年分の本件各更正に原告の所得を過大に認定した違法はなく、したがつて、これを前提としてされた右各年分の本件各賦課決定も違法でない。また、昭和五一年分の本件更正及び賦課決定は、みなし法人所得額を二一一万八〇〇〇円、総所得金額を一五六三万四九八二円、短期譲渡所得の金額を五一九万六八七九円として計算した額の範囲内においては適法であるが、これを超える部分については違法であり取消しを免れない。

三  よつて、原告の本訴請求は、昭和五一年分の本件更正及び賦課決定のうち、みなし法人所得額を二一一万八〇〇〇円、総所得金額を一五六三万四九八二円、短期譲渡所得の金額を五一九万六八七九円として計算した額を超える部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 泉徳治 杉山正己 立石健二)

別表一、二<省略>

別紙計算表一

1 収入金額の区分(所基通 33―11の2)

<1> 旧借地権部分に係る収入金額

新借地権設定の対価×旧借地権の価額(注1)/更地価額

24,760,000円×24,760,000円/36,400,000円 = 16,842,241円

<2> 旧底地部分に係る収入金額

新借地権設定の対価-<1>の金額

24,760,000円-16,842,241円 = 7,917,759円

(注1) 旧借地権の価額は、旧借地権消滅の対価が適正であると認められるときは、その対価によることができるとされている(33―11の2(1)(注))が、旧借地権消滅の対価15,110,000円は、新借地権設定の対価24,760,000(坪当り更地価額600,000円、借地権割合62.5%)の10分の6として算定されたものであつて、適正であるとは認められないから、原告の算定した借地権の価額24,760,000円を採用する。

2 取得費の区分(所基通 38―4の2(2))

<1> 旧借地権部分に係る取得費

{(土地の取得費(注2)(B)-旧借地権につき取得費とされた金額(C))+旧借地権消滅の対価(A)}×新借地権設定の対価(D)/更地価額(E)×A/{(B-C)+A}

{(24,760,000円×0.05)-0円+15,110,000円}×36,400,000円×{24,760,000円/15,110,000円}/16,348,000円 = 10,278,120円

<2> 旧底地部分に係る取得費

{(B-C)+A}×D/E×(B-C)/{(B-C)+A}

16,348,000円×24,760,000円/36,400,000円×1,238,000円/16,348,000円 = 842,112円

(注2)概算取得費(措置法31条の4)

3 短期譲渡所得の金額

収入金額(1の<1>)-取得費(2の<1>)

16,842,241円-10,278,120円 = 6,564,121円

4 長期譲渡所得の金額(措置法31条1項表14号)

長期譲渡所得の収入金額 買換資産の取得価額

7,917,759円<12,227,100円

所得金額 0円

別紙計算表二

1 収入金額の区分(所基通 33―11)

<1> 旧借地権部分に係る収入金額

新借地権設定の対価×旧借地権部分の価額(注1)/譲渡資産の価額

24,760,000円×22,750,000円/36,400,000円 = 15,475,000円

<2> 旧底地部分に係る収入金額

新借地権設定の対価×旧底地部分の価額(注2)/譲渡資産の価額

24,760,000円×13,650,000円/36,400,000円 = 9,285,000円

(注1) 旧借地権部分の価額(更地価額×借地権割合)

36,400,000円×0.625 = 22,750,000円

(注2) 旧底地部分の価額(更地価額×底地権割合)

36,400,000円×0.375 = 13,650,000円

2 取得費の区分(旧所基通 38―4(3)ロ)

土地の取得費(A)×借地権設定の対価(B)/B+底地価額(C)-旧借地権につき取得費とされた金額(D)+旧借地権消滅の対価

(24,760,000円×0.05)×24,760,000円/24,760,000円+13,650,000円-0円+15,110,000円 = 798,042円+15,110,000円

<1> 旧借地権部分に係る取得費 15,110,000円

<2> 旧底地部分に係る取得費 798,042円

3 短期譲渡所得の金額

収入金額(1の<1>)-取得費(2の<1>)

15,475,000円-15,110,000円 = 365,000円

4 長期譲渡所得の金額(措置法31条、37条1項表14号)

長期譲渡所得の収入金額 買換資産の取得価額

9,285,000円<12,227,100円

所得金額0円

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